戯曲公開『冬の練習問題』

2023-03-29更新      

『冬の練習問題』戯曲を公開します。
かなざわリージョナルシアター『げきみる』2022参加作品
戯曲 (dec_001.pdf/627KB)

初演時にパンフレットに掲載した前口上もあわせてどうぞ。

二十歳そこそこの頃、一年ほど土木作業員をしていた。
その時、後に死刑囚になる人の将来の展望について聞いたことがある。彼が事業を起こすにあたって、私は最初の従業員だった。
その頃も、どうかなと思うところはあったが、私は程なく関西に移り、後のことを知らなかった。

次の消息は西成のおっちゃんら向けの注意喚起のビラで、この会社の人間にはついていくな、ここの飯場に入ると軟禁状態になる。というものだった。
その後、仕事の関係で関西から東京に飛ばされ、ある朝見たテレビのワイドショーで彼が死刑を求刑されていると知った。
ほんの十年ほどの間に事業を大きくし、豪邸を建て、数台の外車を乗り回すに至り、タコ部屋に放り込んだ自社の労働者を殺して埋めたという容疑で逮捕され、求刑は死刑。

エレベーターの無い公営住宅の四階で、三人目を妊娠中の奥さんが作った夕飯の食卓を囲んでから、まだ十数年。そこまでの変化に至る彼には、どんな選択があったものだろう。
生まれて初めて裁判を傍聴に行ったところ、私選弁護人を解任したため、公判が延期されたということで、結局彼の姿を直に見るに及ばず、そのまま、今に至っている。
何が変わったのか、最初からそうだったのか、因子はあったのか。

現実とは常にそんなもので、実際には何もわからないし、今の私の立ち位置で、この件の何かを知ったところで、私の何かが変わるわけでもない。
こんなことを思い出したのは、彼から話を聞いたのと同じ頃から模索し続けている演劇の作り方に、いまさら大きな変化が生じたからだ。

生きていて、不意に入ってしまう筋金は存在する。数冊の本で、本当に変わってしまったせいで、変化とはなんだろうと、改めて考えることになった。
演技に求める解像度に、勝手な変化が生じたせいで、役者のみんなに苦労をかけました。今回はそんな公演です。