Tracerouteの話しを小出しに【その2】

2023-07-20更新 [author:      

クラリネットの西田に初めて血パンダの演劇に関わってもらったのが、血パンダの公演『Generalprobe』の初演時なので、2017年だ。
『Generalprobe』は、どこかの劇場の片隅での劇場スタッフの会話と、たまたまそこに居合わせる、楽団の奏者が登場する。奏者は、そこに確かに居て、状況を描写するかの様に演奏する。
西田には、この奏者のリーダーとして、音を決めてほしいというお願いをした。
今でこそ音響のスタッフが居る血パンダだが、専従のスタッフが居ない間は、SEもない演劇を上演していた。実際のところ、今も台本にはSEやBGMについては書いていないし、劇中で普通のイメージで「効果音」を流すことはない。

この時、西田から、クラシックの演奏家が一体どんな風に音を出して音楽にたどり着いているのかを教えてもらうことになった。
最初に驚いたのは、「適当にフィーリングで合わせるといっても、音を出すとなれば作曲に踏み込んでしまうので、音楽にたどり着かない」と言われたことだ。
「なんとなく」というのは無いのだ。合わせるにしても、眼前で展開する光景を汲み取って、演奏する音楽のニュアンスをコントロールすることはできる。最終的に西田には、イメージに合わせて既存の楽曲の断片を演奏してもらうことになった。

次に西田に公演に参加してもらったのが、2019年の『どこかで』。この時は完全にその時さらっていた楽曲の練習をしてもらう形だった。クラリネット奏者が舞台の中心に居て、数名で何かの物語の構成を話し合っているというもの。節々で演奏が入るし、「ここまでのイメージで」という合図で演奏が始まる場合もある。この時はちょうど西田がコンサートのために練習していた曲が演劇の雰囲気にもぴったりだったし、西田も『Generalprobe』の手探りから得た要領で、演劇のイメージに沿った形で練習箇所を断片化してくれたので、『Generalprobe』の時にできなかったすり合わせの感触にここで初めて到達した感じはあったが、この時点ではまだまだ西田に合わせてもらっている部分が多い。
『どこかで』では、挿入歌も制作し、その演奏にも絡んでもらったものの、クラリネット奏者とのコラボレーションとして、互いの特性と技術をきちんと絡ませることができたのかといえば、不完全燃焼感があった。
西田自身は、もう少し自分にも作曲やジャズ的なアプローチの引き出しがあればとは言っていたものの、根本的には互いの技法が何を実現しようとしているのか、その組み合わせをもっときちんとしようということで、とにかく模索のとっかかりを探さねばと、方法自体の模索を本格的に意識し始めるきっかけになった。

クラリネット奏者 西田宏美公式ページ